Bill Evans "You Must Believe In Spring" の音について

 あまりにも有名なアルバムです。内容については私が書き添えるようなことは蛇足にすぎませんので、各レビューや解説を参考にしてください。

 ただ、個人のレビューは「個人の感想」であり、解説は「レコード会社かどこかの会社からの依頼があって、お金をいただいている」ということを前提にし、自らがそれに釣られるのではなく、常に自分を中心において、批判的に見ることを心がける必要があるとおもいます。できれば、前提無しで自分で聞いて感じたこと、を優先し、自分の感性には優先的に従うこと。世界中の多くのレビューや解説を心の赴くままに読み、その後に聞いて感じたことは理知的に押さえる事。を個人的には心がけています。私の心は私のものであり、他のものでは代えがききません。

 逆に言えば、その姿勢を他人に求めることもしません。聞き方や好みは千差万別、相手の好きなことや、やり方にけちをつけるのは無粋の極みです。ここから先は、私ができるだけ客観的な事情から録音とリマスターを掘り下げてみた内容です。誤りがありましたらご指摘をいただければ幸いです。

 

 さて、ここからが本題。

 まず、US盤のLPと、2003年にボーナストラックが入る前のCD、これは私の好みではありません。録音エンジニアはAl Shumitt、プロデューサーはTommy Li Puma。現在ではダイアナ・クラールで有名な組み合わせ。さらにMasteringは若き日のDoug Sax。考えられる最高の布陣なのですが、EddieGomesのベースがエレキっぽい。Evansのピアノもエレキっぽい。はっきりいって、違和感があります。

 録音は1977年、今から40年以上前。場所はハリウッドのキャピタルスタジオ。このスタジオは改修されながらも現役で、スタジオAはフルオーケストラ対応、スタジオBが小規模レコーディング用。Cは現在マスタリング専用のようです。このスタジオは天井が高く、エコー成分がかなり出るので、ストリングスには自然なエコーがかかるため、クラシックやストリング入りのボーカルもので名録音を数多く出しています。

 探していたら、当の録音エンジニア、Al Shumittのインタビューがありました。2ページ目の後半からこのアルバムの話題になります。

RE/P Files: An Interview With Al Schmitt - ProSoundWeb

 

インタビューの中でも、やっぱりこのアルバムのGomezのベースは

”almost like an electric bass”

といわれちゃってますね。

 

 で、ふと思い出したのですが、Waltz For DebbyのドイツプレスのCDは、やや音が硬め、というWebページがありました。

www.audio-masterfiles.com

 

 このページを拝見するまで、日本版は孫コピーくらいの空輸マスターテープからLPを起こしているので、音の鮮度はマスターテープ&カッティングを原製造国(≒アメリカ)でやっているのが良い結果になるのだろうという漠然とした思い込みがあありました。コピーテープに起因する音の曇りや低いダイナミクスを復元させつつ、日本の機器環境に合わせる音作りを日本のマスタリングエンジニアは手がけてきたのではないかと想像しています。(ここの部分は当時の日本版を手がけた方のお話がぜひ知りたいところ)

 ここで今一度立ち返って考えてみると、日本以外の国も事情は同じ。各国で各国の実情に合わせたマスタリング&カッティングが行われていたのではないか・・・

 私はこのページを読んで、上記のような考えに至り、Waltz~のドイツ版CDを入手しました。確かに音が固めです。その後さらにVillageVanguardの録音テープそのものを無編集でCD化した3枚組を聞き、(これはアメリカのFantasy。以前記事にしました)音の鮮度に心打たれ、そちらとドイツ版、おなじみ日本のJVCのK2盤の音源をその時々で好みにあわせて選んで聞いています。(←これ、全部音が違います)

 で、USオリジナル至上主義の思い込みから逃れた私が次に探したのが、表題の'You Must Be In Spring’です。とにかくベースの音が気になって音楽に没頭できないでいました。LPのドイツ盤、2003年以降に曲が追加された直後のWarner-Rhinoのヨーロッパ盤CDを入手し、私の引っ掛かりは解消されました。USオリジナルLPより自然なベース、過剰でないシンバルにまとまっています。ようやく音楽に浸れる。それが率直な感想です。

www.youtube.com

 今日、日本のWarnerのサイトを改めて見てみると、2008年に24bitリマスタリングが施され、SHM-CDとCD、SACDが発売されていますが、残念ながら未聴です。元音源がどのテープかもサイトには記載がありませんでした。

 他力本願ですがご存知の方がいらっしゃれば、教えていただきたいです。。(というか、いつも言いますがレコード会社、どうにかして)

 

追記:2011年のSACD-SHM仕様(WPGR-10008)は、元音源がUSの24bit192khzだそうです。ドイツ盤との音の違いもそうですが、それ以前に、下記↓のようになっていなければ良いのですが。

 

poor-audio.hatenablog.com