Roy DuNann、当時を語る(「Direct From Analog Master」って?)
数年前のインタビューですが、歴史的に貴重で面白かったのと、目からウロコだったのと、それまでの様々な疑問が腹落ちした、大変意義深い内容です。
英語ができる方は、ぜひそのまま読んでください。
そして、今のリマスタリングの潮流である「Direct From Analog Master」について、もう一度レコードになるプロセス面から考え直してみたいのです。
訳文はこちら。
ジャズ&オーディオ通信(from USA):ロイ・デュナン・トリビュート - livedoor Blog(ブログ)
「マスターテープはシンプルかつドライに録音され、リヴァーブはマスタリングすなわちカッティング時に加えられた。ロイはカッティングの際にゲイン等を微妙に調整し、詳細なマスタリング・メモを残した。このメモがなければ、オリジナルのテープを入手しても、ロイの作ったアルバムの音を再現することはできない。(実際、テープに手を加えずにリイシューされた何枚かのCDは酷い音だったらしいが、この事実を知れば当然のことだ。)」
要するに、アナログマスターにはリバーブがかかっていない。音は全然違うものになる、ということ。前回のブログで、Steve HoffmanがXRCDのバージョンを音が良いとしていることに触れましたが、初期のRoy DuNannレコーディングについては、田口晃さんとアラン吉田さんはデジタルでこのリバーブを再現しています。このCDが発売されたのが2002年なので、当時は大変なことだったと思います。
時期的に、Roy DuNannのスタジオにあったリバーブ機材は、1957年発売のEMT140あたりでしょうか。当時の機材は鉄板のプレートがあり、片一方に音源を流すと音に残響が乗り、それをプレートの反対側で拾って、音に響きを加える構造。現在は、デジタルプラグインがあり、簡単に再現が可能になっています。
このインタビューでもう一つ、腹落ちしたのがマイクのこと。
最近のマイクや楽器の音がなぜ昔に比べて魅力的な音にならないのか。ずっと疑問に思っていました。
この時、同席していたのはリマスタリングエンジニアとして高名なバーニー・グランドマンと、レスター・ケーニッヒの息子ジョン・ケーニッヒ。バーニー・グランドマンはコンテンポラリーのマスタリングエンジニアを始め、現在も最前線で活躍する伝説のエンジニア。日本では松任谷由実のベスト盤を手がけているのが最も有名どころでしょうか(あれ、音がアナログっぽいと複数の方から聞きましたが、改めて納得)。レスター・ケーニッヒは当時のコンテンポラリーレコードのプロデューサー。息子さんはクラシックの演奏者だそうです。このジョン・ケーニッヒさんが語るのは、マイクの事情。
「当時のドイツ製のコンデンサー・マイクを上回るマイクは今も存在しない。第2次大戦期~戦後にドイツで開発されたマイク・カプセルを作る技術は冷戦期に失われたときいている。」
今、AKGやノイマン、テレフンケンのビンテージマイクは非常に高価なのですが、やはりその機材でないと録れない音があるのですね。終戦後、高度なドイツの技術は東西陣営から奪い合いになり、工場と技術者ごと持って行かれ、東西に引き裂かれるか、東側に全てを持って行かれる運命にあります。有名なところだと光学機器(ツァイスとか)がそうですね。その後東側では技術の劣化コピーしか作られなかったのは歴史が証明しています。この時にマイクの技術のノウハウも無くなってしまったのでしょうか。残念なことです。
残念ながら現時点では当時の技術を再現し、音を再現することは難しい。また、マスターテープからのデジタル化も、訳がわかっているエンジニアが手がけないと、良い結果は得られない。ということです。
元が悪い状態からいくらリマスターをしても、良くなることはありません。デジタル写真もリタッチは可能ですが、撮った時の状態が悪いと撮り直しを余儀なくされます。そのようなものでも平気で出してしまう(そうせざるを得ない?)スタジオ、とそれをそのまま出してしまうレコード会社。それを簡単に判別できる私たちユーザー。
もう、新リマスターだとかダイレクトなんとかには、目を向ける気がおこらなくなりました。これはこれで、様々な広告媒体からのメッセージには目を向けない、取捨選択の自由を得ているということでは、ありがたいことではあります。
デジタルのダウンロード音源、一番の問題は古物として売却できないことです。
CDやLPは気に入らなかったら売却して次に回せます。PCMの音源は最悪でも自分の気に入った編集を加えることが(素人作業ですが)可能ではあります。
最も自由度の低いのがDSDのダウンロード音源です。編集すらできず、最も高価なものを、何の裏付けもなく購入することを余儀なくされている。
レコード会社や音源をダウンロードできるようにしている会社は、そのあたりの責任をしっかりと認識した上で、ライブラリーを充実させて欲しいものです。そのために、リマスタリングスタジオには人材と機材とを充実させる必要があると思うのです。それが聴く人たちの幸せにつながるのですから。